パンの村、セアへ
ガリシア州南部内陸、オウレンセから車でN-525線をサンティアゴ・デ・コンポステーラ方面へ北上する途中、セアという小さな村があります。
ガリシア州内のみならず、スペインの食のプロには名を知られている有名なガリシアパンの村です。
パン・デ・セアとは
スペインで初めて原産地呼称を取得したパン(2019年現在取得しているパンはスペインでセアを含み3種のみ)で、セア村でのみ作られるパンです。分厚い固い皮の中にしっとりもちもちの生地がむっちり詰まっています。
楕円状にまとめた生地の中央に大きく切り込みを入れて焼き、さらに途中で、木のへらを下に差し込みへらを半回転させる動作で、表面中央を割り、中の蒸気を出して焼き上げます。
平坦な土地が少なく小麦の生産が限られていたガリシアの山奥ならでは、小麦粉を節約しぎりぎりまで水を入れて生地をこねる「高加水」製法です。スペインの一般的なパンは、翌日には石のように硬くなり食べれなくなることが多い(ので、その前日のパンを活用したレシピが数多くある)のですが、このパン・デ・セアは厚い皮が水分の蒸発をふせぐため、三日を過ぎても中はもちもちのままなのも特徴です。
パンは1㎏と500gの2種類、専門の袋に入れられ、封をして販売されます。オウレンセの市場や、サンティアゴ・デ・コンポステーラの市場でも手に入れることができます。
セア村から山を上って9㎞、山腹にそびえるオセイラ修道院で作られたパンの製法が広まり、その後何世代もがパンをつないできたこの村では、700年前に修道院へ納めていたレシピそのままのパンを現在も村のそこかしこに点在する小さなパン屋さんたちが焼いています。
このオセイラ修道院は「タコのガリシア風」発祥の地としても知られています。修道院がある山のふもとのセア村の隣に「世界一タコのガリシア風が美味しい村 オ・カルバジーニョ」があるのも地元では有名です。
セア村訪問
オウレンセからタクシーに乗り、セアを目指しました。セアに近づくにつれ、通り沿いに「Venta de Pan de Cea」(パン・デ・セア売ってます」という看板がちらほら見えます。
セア村のプラサ・マジョール(中心広場)には、大きな時計台がありました。下写真の、左側が村役場です。
時計台の足元には水が出続ける水道が。セアにはポルトガルからの巡礼の道が通っています。巡礼者たちは時計台の陰で涼み、この水を飲んでサンティアゴを目指します。
時計台の向かいにある役場前にはパン屋さんルートを示した地図がありましたが・・
うーん、これではわからない。
セア、0㎞の看板にて。巡礼の道順を示すホタテ貝もありました。
地図なし、とにかく村を一回りしようと歩き始めるとすぐに、石造りでドアの隣に小窓がついた、昔ながらのパン屋さんの建物を見つけました。窓からのぞいた内部には、蜘蛛の巣が張った、でも以前は間違いなくパン屋さんだったと思われる道具がそのままになっていました。
おそらく以前、パン屋さんだったであろう、古い家が村のそこかしこにありました。
途中でパンを持つ女性の像を発見しました。向かって左側は、セアのパン特有の「割れ目」を作る道具で、右側はパンを出し入れする道具です。
本屋さんでパン屋さんに出会う
どこに行ったらパンを焼いているパン屋さんがあるのか、ふらふらと入った本屋さんのおば様に訪ねてみたところ、「あらまー!日本から~!よく来たわね、ちょっと、お父さん!お父さん!」という感じでちょうど新聞を買いに来ていたおじいちゃんを紹介されました。村に詳しいおじいちゃんかと思いきや(実際そうなのですが)実は村の外れのパン屋さんのお父さんでした。お名前はヘネロッソさん。
歩けばパン屋さんに当たる村、それがセアのようです。
お父さんが連れて行ってくれたのは、代をゆずり、現在娘さんがパンを焼くForno da ANA(アナの窯)、この日の作業は終わり、いくつかのパンが木棚に残るのみでした。
セアのパンは、全て小さな工場で手作りで作られます。今でこそ、電動のパンこね機を使いますが、ひと昔前は木の櫂に粉と水を入れ、腰をかがめて少しずつ混ぜながらなじませ、休ませてからまたこねる、という繰り返しで作られたといいます。
作業はまだ暗い夜のうちから始まり、昼過ぎまでかかって焼き上げるパンの数は一工房で30個程度。
若者は家業を継ぐことなく村を出ていき、現在セアは、スペインの各地方同様高年齢化・過疎化に悩んでいます。
ヘネロッソさんに、セアのパンは何が他のパンと違うのか尋ねました。
「何も特別なものはないよ、人だよ、ただ人がずっと頑張って作っている、それだけだよ」
水が美味しいとか、小麦が美味しいとかではないと、ヘネロッソさんは繰り返し言っていました。「人なんだよ」と。
アポなしでパン屋さんを見学できます
今回突撃して知ったのは、アポなしでふらっと、工房に入れること。村は小さいので、ぐるぐる歩いて回っていると、セアのパンのマークが入ったパン屋さんの看板が目に入ります。
カルビーニョさんでは、ちょうど窯にパンを入れたところ、中には40個ほどのパンが並んでいました。
写真も大歓迎とのこと、仕込みの時間、焼きあがる時間も教えてくれるので、合わせていけば作業を見学できます。もし仕込みから見学したい方はぜひセア宿泊をおすすめします。
パン・デ・セアまとめ
外ががりっ、中がもちっ、香ばしい小麦とほんのり塩味のシンプルな味わい。オウレンセのバルで初めて食べたときの感動が忘れられません。
今回はふたつの工房を見学でき、パン・デ・セアが作られる風景を見ることができました。
ノープランで行ったからこその出会いがあり、存在も知らなかった修道院も訪ねることができました。
村にまだ残る小さなパン屋さんたちは、おそらく今後どんどんその姿を消していくと思います。
ガリシア、内陸。700年前からパンを作り続けるパンの村。もし機会があればぜひ。
このような伝統を守って実直にパンを作っている人がいることに感動しました。でも、私はとてもこの地にいけそうにありませんが・・・