こんにちは!北スペインの食と観光情報を研究中、Eriko(@greenspainplus)です。
みなさん、サルガデロスって知ってますか?
スペイン北西部ガリシア地方で愛される陶磁器メーカーです。
なめらかな白地に深い紺の色付けが爽やか。いろいろな幾何学模様のデザインがあります。
ガリシアへ旅行に行くとサルガデロスのお店へ立ち寄ってお土産を買うのが楽しみの一つです。
大好きな、憧れのガリシアの陶器メーカー、サルガデロス。
ちゃんと知りたくて色々調べてみました。
サルガデロスの”はじまり”
ガリシア州ルーゴ県の北部Cervo(セルボ)市の小さな教区、Sargadelos(サルガデロス)にて、1788年にその歴史は始まります。
「サルガデロス侯爵」と呼ばれていたアントニオ ライムンド イバニェス氏は、鉄が豊富に採れることからこの地域に製鉄所を建設する許可を国王に求めました。
周辺の町の抗議を受け王室が申請を拒否するも、その後要求を繰り返し1791年に建設許可を取得、1794 年に最初の溶鉱炉を建設。
17世紀以来、製鉄所は武器を製造するための軍事目的でのみ建設されていたため、このサルガデロスの製鉄所は、スペインにおいて市民主導で建設された初めての鉄鋼工場だったと言われています。
さらに、鉱物を焼成するための 2 つの炉と、大砲を製造するための反射炉も建設されました。
この鉄鋼工場はその後1875年まで稼働していました。
1803年、サルガデロス侯爵は、この地域で良質なカオリン(陶磁器のコーティングの原料となる粘土)が採れることを発見。製鉄産業の他に、陶器工場を立ち上げて事業拡大を進めます。
政府から鉱山の利権も得て順風満帆とも思えた1809 年、リバデオの住民の暴徒に襲われたサルガデロス侯爵は命を落とします。
詳しい理由などは不明とされていますが、「侯爵のフランス化」が近隣の住民から不満として訴えられたとのことです。
暗殺以前の1978年にも、屋敷や工場に火をつけられ略奪される大規模な攻撃を受けていたことも記録がありました。彼の死後、家族は投獄されたのち、侯爵夫人は亡くなり、娘の一人は正気を失うなど、家族の残酷な運命の終わりが記録されています。
悲劇の侯爵は、自身が残した工場がガリシアの宝、偉大なる文化を生み出す未来を想像したでしょうか・・・
サルガデロスの”終わり”
サルガデロス侯爵亡きのち、鉄鋼工場を引き継いだ相続人は戦況や反乱による苦難を乗り越え、事業継続を試みます。
1812年には陶器工場でも「チナ」(中国)と呼ばれる陶磁器の生産が始まります。
1819年には 86人の労働者がサルガデロスで働いた記録がありますが、その後経済的に破綻し、工場は一旦閉鎖となりました。
時は移り1840年、鋳造所はルイス・デ・ラ・リバ・イ・シア社に15年間の契約で貸し出されることになります。
その際、設備の大規模な改修と改善が進み、2つの炉、3つのキューポラ、2つの蒸気エンジンが稼働する機械作業場を備えた、当時では高水準の工場に姿を変えました。
この時、同じく陶器工場も大幅な改修により進化します。
1845年の陶器工場では約1,000人が働き、年間20,000枚の食器を生産していたと言われています。生産された陶磁器は、22隻の独自の海上輸送船隊により流通されていました。
この時、サルガデロス陶器はその品質の高さから王室御用達とされ、イサベル2世(1830-1904)にも献上されていたそうです。
ルイス・デ・ラ・リバ・イ・シア社へのリース期間が終了し、サルガデロス工場は創業者(悲劇の侯爵)の孫のカルロス イバニェスが引き継ぎ、工場を再稼働しましたが、その後再び、経済的な理由から1875年に完全に事業停止となりました。
窯や工場は、石を再利用するために解体され、19世紀の栄光の痕跡は全て失われてしまったのでした。
サルガデロスの再生
1949年、サンティアゴ・デ・コンポステラ生まれの一人の芸術家が、ア・コルーニャ県北部のサダに陶芸工房を建設します。
彼の名は、イサック・ディアス・パルド。知的ガリシア主義者、画家、陶芸家、デザイナー、編集者、実業家であった、ガリシアの伝説的な人物です。
ガリシアの品質の高い土・原料を使って作られる、硬く白い美しい陶磁器は、彼のさまざまなデザインの試みも併せて人気となり、工房は拡張され発展します。
大成功の最中、スペインから追放された芸術家・知識人たちを訪ねてアルゼンチンを訪れた後に、イサックは、石板画家のルイス・セオアネ(ガリシアからアルゼンチンへ移民した両親と幼少期をアルゼンチンで過ごし、その後ガリシアへ帰国し成長する)と共に、ガリシア文化のアイデンティティの回復、再生を使命と決心、サルガデロス侯爵の遺産の復興に着手することになりました。
1968年、イサックとルイスは「Sociedad Cerámica de Sargadelos /サルガデロス陶器ソサエティ」を設立。2年後には、サルガデロス工場跡地の遺跡を保存した陶磁器の複合施設を完成させました。この建設は、のちに重要文化財として認定されます。
この新しい「創造実験室」(当時の芸術家、知識人、教師や学生などが集まってさまざまなクリエイティビティに関する活動を行ったため、そう呼ばれた)では、イサックは200年前に悲劇の運命によって命を落とすも、当時ガリシアを経済的・文化的に押し上げる大きな一端でもあったサルガデロス侯爵のスピリットを表現し、ガリシアの土で作られた陶磁器にガリシアのデザインを施す作品を生み出しました。
その品質、デザイン、芸術性、歴史背景により、現在、サルガデロスの陶磁器は国際的にも高く評価され、スペイン国内のみならずMoMA、ニューヨーク近代美術館などでも販売されるまでになりました。
敵多きサルガデロス侯爵が200年前に蒔いた種は、現代の伝説の芸術家イサックの手により、ガリシアの誇り、ガリシアの宝として再生されたのです。
2012年1月、イサックは92年の人生の幕を閉じました。その1ヶ月前となる2011年12月10日、彼が遺した言葉はこちら
«Me enorgullezco de que el nombre de Sargadelos sea reconocido en todo el mundo.»
https://www.isaacdiazpardo.gal/es/empresas/sargadelos
サルガデロスの名前が世界中で認知されていることを誇りに思います。
イサックさん、ありがとう・・!
現在、サルガデロスは上記のサダと、セルボの二ヶ所で150名のデザイナー・職人の手で生産されており、15箇所の直営店の他、スペイン国内、アメリカ、アジアにある70店舗で製品が販売されています。
食器やインテリア販売の工業的・商業的な成功はもちろん、ガリシア文化を世界に伝える重要な仕事としてサルガデロスは大きく成長することになりました。
本当に素晴らしい・・・!
博物館を併設するサダの工場は無料で見学可能、直売所もあります。
サルガデロスのパターン
サルガデロスで最も特徴的なコバルトブルーの幾何学模様、これは、ガリシア文化の根幹となるケルト文化、大西洋のモチーフをもとにデザインされているそうです。
例えばこれは、大西洋の波でしょうか。
サン・フアン・デ・ポルトマリン教会のコーベル(持ち送り、屋根部分を支える石作りの部分)にインスピレーションされた、サルガデロスの真っ白代表シリーズ、PORTOMARÍNICO。
ルーゴの教会VILAR DE DONASをイメージした、その名もVILAR DE DONASシリーズ。
全てのシリーズに、ガリシアの風景・文化・愛が詰まっているサルガデロス、カタログが見たい方はこちら→公式ページで2022年公式カタログをダウンロード
見るだけでも楽しいです。
サルガデロス、日本で買えるの?
公式サイトではオンラインショップがありますが、日本への配送は行っていません(2022年現在)
楽天で、一部取り扱いの商品がありました。とても高級なのでなかなか手が出ません・・
気になる方は、色々楽天で探してみてください!
参考サイト:
https://patrimonio.camaraminera.org/gl
Sargadelos, la legendaria cerámica gallega con 200 años de historia