10月某日、代々木八幡駅からほど近い、ぐりすぺではおなじみのスペイン料理店、Ardoak(アルドアック)にて、ワイン会を行ってまいりました!
今回はスペインワインと言えばの佐武さん(El vino nos habla)、そして菊池さん(サンパウ)との豪華コラボレーション!お料理はもちろん、酒井さん(アルドアック)にお願いしました。
題して「泡」の会、ご報告します。
今回のテーマは「アンセストラル」、スパークリングワインと一口に言えど様々な方式によって発泡が作られますアンセストラルとは・・以下、佐武さんの資料から抜粋します。
Metodo Ancestral メトド・アンセストラル(先祖代々の方式)、Metodo rural メトド・リュラル(田舎方式)とも呼ばれる。
一次発酵の途中でワインを瓶詰し、残った糖分により瓶内発酵を進めてスパークリングワインを作る。動瓶し、澱引き。
歴史:1531年、ラングドック・リムーで始まったと言われる。
特徴として低いアルコール度数と柔らかな泡、果実本来の風味が楽しめ、「ナチュラル」というイメージも手伝って現在スペインでも流行の兆しを見せているワイン。
アルコールの高いワインから離れビールやカクテルを好む若者たちが、おしゃれで飲みやすい、ヘルシーなワイン・アンセストラルに注目しているという意見も(ACE REVISTA)
アンセストラル方式の正式なスペイン語名は:Vino espumoso aromático de calidad(EU規定・最低9か月熟成)、直訳すると「高品質、香りの高いスパークリングワイン」となります。
スペインでの泡づくりはフランスに比べて歴史が浅く、近代1847年ごろと言われています。事実・詳細は不明ながら、アンセストラル方式に近いスパークリングワインが偶発的に作られたというのが一説で、その後カバ(シャンパーニュ方式)が作られたのは19世紀末、1868年のパリ万博でペネデスの生産者Francesc Gil、Domènec Soberanoの二人がカバを発表した記録が残っています。
なぜスペインのスパークリングワイン文化は遅れたのか、それはスパークリングワインを作る様々な方式のうちでもとても重要な位置を占める、「品質の良いガラス瓶」を作る製瓶産業の遅れと一致しています。
中世から製瓶産業が盛んだったフランスに比べ、スペインでは当時、泡が発生する条件を助ける重要な要素である瓶が、なかったのですね。当時スペインで流通していた瓶は高価なうえにガスの圧に耐えられる強度がなかったと言われています。
この製瓶産業の遅れは、スペインの他ワインやりんご酒(シードラ)にも影響しています。多くの地域でワインは瓶詰ではなく樽から大容量の密閉性の悪い瓶か陶器の器に移して消費者の手へ移りました。バスクのシードラも、発酵させた大樽からグラスへ直接注ぐのが一般的で、全国的に流通がスタートしたのは安価で品質の高い製瓶技術が整った20世紀以降となっています。
話がそれましたが、そういうわけでスペインでは、瓶内で発酵を行う方式のスパークリングワイン作りが19世紀末ごろにスタートし、紆余曲折を経ていま、アンセストラルに注目が集まっています。
紆余曲折したのは、スペインで生産されるスパークリングワインのひとつ、「カバ」の歴史です。優れたスパークリングワインの代名詞、シャンパーニュに遅れること2世紀、カバはシャンパーニュ地方で作られている発泡性ワインの品種を使用し、シャンパーニュ製法に習って生産されていました。パリ万博でカバが初めて世界へお披露目された年からまもなくして世界をフィロキセラ禍が襲います。スペインでもぶどう畑が次々と壊滅、それからペネデスでは、フランス品種からスペイン土着の品種への切り替えが始まり、よりスペイン独自の味わいを求め変化していきます。
10年前、カバと言えば動物のカバでした。東武動物公園のカバ園長でした。「カバを飲みたいな☆」などと言えば頭の上で指を回されたでしょう、それから時が経ち今、「カバ」はスペイン産スパークリングワインとして日本でもその名が定着してきました。
今日、「カバを飲みたいな☆」と言えば、指を回される代わりに、「カバね!コスパいいよね!安くてそこそこおいしいし!」という返事が返ってくるでしょう、そんな人々は言います、
「カバで3000円?だったらシャンパン買うよ」
そう、日本で定着した「カバ」は、「安さが売りのスパークリングワイン」の代名詞になってしまったのです。この「安さが売りのスパークリングワイン」の代名詞は、やがてチリ産スパークリングワインにぐいぐいと肩を押されていきます。
(なかなか泡会の話に進まないと気づいた方、もう暫しご辛抱を)
スペインのカバ生産者たちの間でも論争が起こります、このままでいいのかカバ、カバという名前が付くだけで安く品質が劣っているイメージを抱かれるままでいいのかカバ!論争渦巻く中、それでも絶大なパワーを誇るフレシネ、コドルニウはびくともしません。やがて、D.O.カバを脱退しカバを名乗らないスパークリングワインの生産へ移行する生産者も現れました。
そして先日の泡会で(やっと!)佐武さんが冒頭に話した、ペネデスのワイナリー「ベガ・デ・リベス」のラファエル・サラがワイン学会で放った強烈な一言が、
カバは、間違いだった。
カバは間違いだったのでしょうか。今度それについて、また話しましょうか。佐武さん、お願いします!まずはEl vino nos hablaの「DOカバを巡る動き」を読んでおきましょう。
さて、そんな論争を背景に、「違う形のスパークリングワイン」として佐武さんが提案してくれた「アンセストラル」。自然派ワインに注目が集まる今まさに、スパークリングといえばカバ!なスペインワインの新しい一面を考える良いチャンスを頂きました。
泡会、佐武さんがチョイスしてくださったアンセストラル方式のワイン。(左からティスティングした順)
今回お声掛けした参加者の皆様は、佐武さんとコラボのテスト的なワイン会ということもありワイン業界プロの皆様となりました。
佐武さんのスペインからのほやほや情報と、菊池さんのティスティングコメントを伺いながらメインの4種を試飲しました。
①ティンク・セット Tinc Set 造り手はToní Carbó ワイナリーはLa Salada
タイプ:発泡(メトド・アンセストラル) 品種:チャレロ50%、マカベオ50% 栽培:ビオディナミ(無認証)
ヴィンテージ:2014 全体的に冷涼でぶどうがゆっくり成熟、白ぶどうは高い酸とバランスの取れた素晴らしいクオリティ。黒ぶどうは9月に降った雨で特に遅熟品種は腐敗や病害で難しい年。
・佐武ティスティング:赤いりんご、焼きりんご、泡が優しく心地よい苦み。クリーンでヨード的な旨み。
・菊池ティスティング:南仏よりミネラリー、ふくよか。洋なしなど、良く熟れた果実の旨み。
②カルトシャ・ベルメイ Cartoixà Vermell 造り手はMassimo Marchiori ワイナリーはPartida Creus
タイプ:発泡(メトド・アンセストラル) 品種カルトゥシャ・ベルメイ(赤チャレロ)100% 栽培:ビオディナミ(無認証) ヴィンテージ:2014 海へ3~4kmに位置するペネデス最南西端の区画。
ぶどう樹の病気や気候による害も”少しケガしたくらいで薬なんて飲むな”精神、真摯なケアでぶどう樹本来の力を活かす。ヴィンテージにより、マセレーションの期間も変えるため、年ごとの味わいの違いが楽しい。マッシモは自然に対する深い知識と畏敬の念を持ち、ペネデスの失われた土着品種を復活させたイタリア人。
・菊池ティスティング:さくらんぼなどの明るい色合いのベリー系、トウモロコシや酵母の旨み、サラミのような熟成感も。なめらかな舌触り。
③アンセストラル ガルナッチャ&スモイ Ancestral Garnatxa & Sumoll 造り手はEnric BartraとRafael Sala ワイナリーはVega de Ribes
タイプ:発泡(メトド・アンセストラル) 品種:ガルナッチャ・ブランカ80%、スモイ20% 栽培:有機、ビオディナミ(無認証) ヴィンテージ:2008 海から直線距離5kmほど、ペネデス中央部より寒さ、暑さがおだやか。2008年は比較的冷涼、雨も適度。この造り手のRafaさんが、「カバは間違いだった」と会場どよめかせた方です。
佐武コメント:かりん、梅、涼やかさ。
菊池コメント:シェリーのようなナッティなコク。泡立ちがソフトできめ細やか。酸が柔らか、こってりとした厚みがあり、ナチュラルな熟成感。
④ロサ エスクモ Rosat Escumós 造り手はCarlos Alonso、ワイナリーはCarriel dels Vilars
タイプ:発泡(メトド・アンセストラル) 品種:マカベオ、チャレロ、ガルナッチャ、ガルナッチャ・ブランカ、パレリャーダ 混醸 ヴィンテージ:2007 平年並み、雨少なく暑すぎず、昼夜の寒暖差が大きい。冬季の剪定、硫黄散布以外は何もしない放任主義。栽培:認証なし(認証って?)
菊池コメント:ブランデー、ナッツ、シェリー、干しぶどう、しょうゆのようなコク、ボリューミーでアフター長い。煮込み料理などに合わせたい。
合わせたお料理は下記。特筆すべきはコカとイカ。
塩漬けのイワシの絶妙な塩気とうまみが、香ばしいコカ生地と甘味のある野菜と最高の相性。
香ばしいイカと甘いイカスミ、とろりと南国の香りのイチジクが口の中でまじりあった時の官能的な味わいはぜひアルドアックで。フレッシュイチジクの季節しか食べれませんからもう来年かなぁ。
楽しいフリーティスティングタイム、お料理に合わせて、笑い声もボリューミーに。フィデウワも登場。
楽しい雰囲気も一瞬で空気がぴりっとする、魔の「ブラインドティスティング」もありました。
外すと、
このくらい全面的に否定されるので、プロの方々だけにプレッシャー?酒井さんのご厚意で、当初ブラインドは一種だけだったはずが、どんどん出てくる、5本ほど開けたでしょうか!?
そしてやっぱり最終的に、「ワインは、面白いね!」となる、この一体感の楽しさ。
最後は一番気に入ったワインを手に、最高の表情をお願いしました。
テスト的に開催された第一回佐武会、ワインに熱い想いを持つ総勢15名、真剣に考え、真剣に間違え、真剣に語って、笑って酔っ払った、理想的なワイン会になりました。
またぜひやりたいので、その時もみなさん、お願いします!
固定概念や枠組み、国や地域に縛られない、純粋にワインを知って楽しむ会。スペインの畑から土のにおいが香るような臨場感あるワイン会になりました。
また近々・・(次はどんなテーマかな?)
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