こんにちは!北スペイン料理研究家のEriko(@erikogreenspain ) です。
先日ご縁をいただき、東京建物・TFI・Gastronomy Innovation Campus Tokyoさん主催による、バスク・ビスカイアのムンギアにあるレストラン、BAKEA(@bakea.mungia)のトークショー&ワークショップ、そして翌日のコラボディナーにてスペイン語通訳を務めさせていただきました。
素晴らしいお話を聞けたので、ぜひシェアできればと思います。
BAKEA バケア
バスク州ビスカイア県(ビルバオがある県)の内陸にある人口1万7千人の街、ムンギアに2023年にオープンしたレストランです。
住所:Olalde Berezia 1, bajo, Munguía 48100
近いうちに星を取るのではないかと噂のレストランで、すでにスペイン版ミシュランとも言えるグルメガイド、Guía Repsolで太陽1つを獲得しています。
BAKEAのコンセプト
合金
融合によって得られる均質な概念、3つの要素から構成されており、
そのうちの一つは金属である
鉄 / 薪 / 記憶
これが、公式ホームページ冒頭に書いてあるコンセプトです。
一読しただけでは「?」という感じなのですが、お話を聞いてみたら、これが愛の溢れるコンセプトであることがわかりました。
トークショーで伺った話を、まとめてみたいと思います。
バケアを立ち上げたオーナー、Alatz Bilbao(アラッツ・ビルバオ)はムンギアの鍛治職人の息子として生まれました。
一時は父と同じ道に進み、鍛治職人として鉄を打つようになるも一転、火に魅了され火から生まれる食の世界へ進むことになります。
ビルバオの料理学校を出たあとムガリッツで学び、父が営む鍛治工房の隣にBAKEAをオープンしました。
コンセプトの根幹となっているのは、彼自身が幼い頃から触れてきた「鉄」そしてその鉄を熱する「薪」そして、父や祖父、家族たちと過ごした山の家での温かい「記憶」です。
これらが融合する様子を、元鍛治職人として「合金」という言葉でまとめているのも素敵。
店内は薪が積まれた仕切りと、長テーブルが印象的。これは地元の美食倶楽部で友人や家族、地元の人たちと囲んだ長テーブルをイメージしているとのことで、二人組などが座る際には照明で席を区切る相席スタイルになります。
キッチンは、特別にデザインされた薪ストーブでできています。
左下で薪を燃やし、その熱で上の鉄板が熱され、そこで鉄板焼きにしたり、鍋を置いて煮物をしたり、鉄板に開いた穴から生火でも炒め物ができます。
さらにその熱が管を通って右へ伝わるようになっていて、下は3部屋に分かれたオーブン(火元に近い方から強火、中火、弱火になり、スモークなどもこのオーブンで行う)、そしてその上には薪が燃えた炭を移して網焼きができるようになっています。
さらにその網焼きの上では、上に上がる熱を利用して魚を干したりもするそうです。
一つの火元で、鉄板焼き、煮物、炒め物、網焼き、スモーク、乾燥までできてしまうことになります。
一枚の写真がないのでわかりづらいですが、ぜひ上記の「Instagramでもっと見る」をクリックして写真を見てみてください。キッチンの繋がった写真を見ることができます。
このキッチンの熱を通すエネルギーは薪のみ、ガスも電気も使っていません。
またその薪も、近隣の森で取れるオークやブナ、そして私も以前勤めていたインポーターで取り扱っていた素晴らしいチャコリワイナリー「ドニエネ・ゴロンドーナ」で出る選定したぶどうの枝を使っているという徹底的な「地元」のこだわり。
また、鍛治職人であるバックグラウンド(お父さんは今も職人)から、キッチンで使う調理器具、客が使うナイフやフォーク、スプーンなども自身が打ったもので、さらに近くの海岸の石、近くの森の木などを使った器も。
人、食材、カトラリーのみならず、エネルギーもバスク州内でまかなうという考え方で「料理界のアスレチック・ビルバオ」(バスク出身選手しかいない、ビルバオのサッカーチーム)とも呼ばれているそうです!
もちろんワインは全てバスク産。好きすぎる・・・!
しかし、私も長らく飲食業界に身を置いてきましたが、「鍛治職人」の世界と「レストラン」が融合するというのは見たことがありません。
そしてそれが混ざり合った時、こんなにしっくりくる温かいものが表現できるとは・・・!
今回オーナーのアラッツと一緒に同行していたキッチンスタッフのアクセルが、すごく素敵な話をしてくれました。
「ただバスクのものだから使うというわけではなくて、バスクの中でこれだけの多様性があることをみなさんにシェアしたいから使っている」
熱い・・・!
無骨で実直、しかし調理方法や考え方は日本をはじめ世界各地から学び形を変える柔軟さ、まさに鉄ではないか・・(こじつけ?)
ちなみに、彼らが言う「バスク」は、いわゆる国境で区切られたバスク州「Euskadi」ではなく、歴史的な領域としてのバスク地方を意味する「Euskal Herria」(・・・バスク人とバスク語の歴史的な故国を指す概念 wikipediaより)という言葉が使われていました。これにはフランスバスクや、お隣のナバーラも含まれます。
そんなユニークなコンセプトのもとに、提供されるお料理も大変ユニークでした。
BAKEAのシグニチャー
ムンギアから北に10kmの港町バキオでとれた最高のイワシを塩で漬けた自家製アンチョビに、近くの森で採れたビーポーレン(蜂が集めた花粉)をまぶし、その蜂蜜を添えた一品。
これがバケアの始まりの一品で、指で尾をつまんで生の魚を食べる、原始的な人間らしさ、のコンセプトがあるそうです。
バケアで使う食材は、
BAKEA propone disfrutar de lo mejor de cada temporada, de sabores reconocibles o de referencias cotidianas,….
バケアは、旬のもの、慣れ親しんだもの、(バスクの)日常を代表するものを楽しめる・・・
とホームページに書いてある通り、地元の人々が親しむ一般的なものが使われているのも特徴で、高級食材についてある「メッセージ」を発信する一品もあります。
それがこの、NABO/BILBAINA(カブのビルバオ風)です。
これは、「うなぎの稚魚」が生きるために必要な食としてではなく、嗜好品として人気となったため乱獲されたせいで貴重な食材となり価格が異常に高騰している異常な現状、そして持続不可能な人間のエゴへの「抗議」だそうで、
うなぎの稚魚を調理する方法で、稚魚に見立てたカブを使っています。
また、一口にバスクの田舎の味が詰まっているのがこの、MERENGUE / TXORIZO(メレンゲとチョリソ)。
バスクの冬、山間のカセリオ(農家)では、一年を締めくくりそして翌年へ命を繋ぐ大切な「屠殺(マタンサ)」が行われます。
この田舎の象徴的な年末のイベントを代表する味は、アラッツにとってはバスクのチョリソ(ピメントンではなくピミエント・チョリセロを使う)の炭焼きと、それに合わせて食べるフライパンで作ったウエボ・ロト(揚げた芋と目玉焼きを混ぜて食べる)。
その思い出の味が、この「メレンゲとチョリソ」に集約されていて、炭焼きのスモーキーな風味のチョリソクリームと、ほんのり甘いメレンゲが口の中でほどけると、もうすごい、すごい幸せな気分になりました(通訳中、これだけは大きな一口でもらいました笑)
(チョリソクリーム、今まで聞いた全てのコンセプトに逆らって、瓶詰めにして日本に輸出してほしい!!)という本音はこっそり仕舞って、ムンギアに食べに行かなくてはいけないと強く思いました。
ちなみにこの「メレンゲとチョリソ」は、両側がスプーンになった一本のオリジナルのカトラリーが登場し、その両端のスプーンに乗った「メレンゲとチョリソ」を二人で協力して食べるという演出もありました。
これにも、「分けあって食べる」という田舎のバスクの「記憶」が入っています。あ〜素敵。
最後に、ワークショップや翌日のディナーでもどちらでも提供されたのが「El taller(鍛治工房)」です。
突如、鉄を叩く工房の音源BGMが流れ、目の前の皿に置かれたスチールウールにスタッフが火をつけて回ります。
火が燃え金属がぶつかる騒音、鉄が燃える匂いの中で提供されるのは、豚のハツと血液を加えて煮たレンズ豆の煮込み。
職人がタッパーで持ち込むレンズ豆の煮込みを工房で食べる、そんな一瞬を体験できる一品は、ごめんなさい、写真はありませんが、綺麗で清潔なキッチンスタジオにいる参加者の皆さんが、年季が入って煤けた工房に瞬間テレポートするような不思議な感覚にさせるものでした。
これは現地のレストランでもコース内で同様に提供されています。
料理や飲み物だけではなく、その場の匂い、音、そしてそれを食べさせる動作、五感でバスク(しかも田舎の、昔の郷愁のバスク!)を感じることができる仕掛け、これを考えるのがまだ33歳のオーナーアラッツと、30歳のアクセル、他「バケケ」とよぶ総勢8人の若いチームというのが驚きです。
食や飲み物、調理器具や調理方法について説明をもらうごとに、「この人たち本当に30代なの?」と思うほど、憧れの郷愁のバスクへの愛を温かく語ってくれるおじいちゃん達と話している気分になりました。
これらのお料理はほんの一部、全体で体験したら私はもうどうなっちゃうんでしょうか!
ちなみにこのBAKEKEのみなさん、それぞれが自分が担当する部門の責任者で役職や立場の差がなく、給料は全員同額(オーナーも)!のフルフラットなグループで週40時間労働、「働く人にとっても持続可能な仕組みでないといけない」をモットーに新しい飲食の形を実現している、これもかなり驚きました。
BAKEAのコースは1種類
季節に応じて13種類のバリエーションをもつBAKEAのデグスタシオンは93ユーロ一本勝負、50ユーロでバスク産のワインのマリアージュをつけることができます。
ビーガンやベジタリアン、お子様向けメニューはなし、予約はホームページでオンラインで送信できます。
BAKEAのホームページ:https://www.bakeamungia.com/
スペイン語/バスク語/英語で見れます。
来日していたアクセルをはじめ他スタッフも英語が流暢で、丁寧な説明が可能とのことです。
まだ、伺った全ての素晴らしいお話を書ききれていない気がするけど・・・
とにかく、絶対ムンギアに行く必要ができてしまいました。
皆さんもぜひ次回バスクに行くことがあればどうぞ、BAKEAへ!
Eskerrik asko!
コメントを残す