こんにちは!北スペイン料理研究家の @erikogreenspain 、Erikoです。
2026年初夏、バスクのみならず世界で今話題のレストランARREA!(アレア!)に行ってきました。
ARREA! Jatetxea(アレア!ハテチェア)

ARREA!(アレア!)は、以前はサン・セバスティアン旧市街にあった伝説のバル「A Fuego Negro」共同創業者のEdorta Lamo(エドルタ・ラモ)が地元サンタ・クルス・デ・カンペソにて2018年にオープンしたレストランです。
ミシュラン掲載、グリーンスター獲得、そしてスペインのグルメガイドであるレプソル2つ星を獲得しています。

オーナーであるエドルタが生まれたこのアラバの山間の村、サンタ・クルス・デ・カンペソの伝統と習慣、そして山の「密猟者」文化を現代的に表現した料理を楽しむことができるという、一回聞いただけでは頭の中にクエスチョンマークが浮かぶコンセプト。
スペイン語でLa furtiva(密猟)という非合法なテーマをあえてコンセプトの中心に掲げた背景には、バスク地方内陸、特に山間部の長く貧しい暮らし、そして、やむをえず山に入り密猟をしたような家族、祖先たちをを忘れない、という気持ちがあるようです。
ARREA!では、ジビエ、魚、そして畑で収穫した野菜や山で採れた植物などを生かし、エドルタが信じ、この地に生き続ける哲学に基づいてデザインされた料理を見て、感じて、味わうことができます。
サンタ・クルス・デ・カンペソ
サンタ・クルス・デ・カンペソは、ビトリア県南東部、ほぼログローニョに近い、バスク内陸の人口1000人ほどの小さな村です。

シエラ・デ・コデス、ロキズ、オルニージョス、そしてサン・クリストバルといった山々に囲まれ、ローマ時代から人が暮らした集落があったと言われ、その後もナバラ王国とカスティーリャ王国の間で何世紀にもわたって繰り広げられた争いの中でその姿を形成してきました。
古い礼拝堂、製粉所、修道院跡などが今も静かに残る、歴史の止まったような村です。
今回はビトリアからマルケス・デ・リスカル見学に立ち寄った後、タクシーで山を越えて向かいました。
ビトリアから直接向かう場合、バスで40分ほどで行けます。
ARREA!内部へ
レストランはバルを併設しており、バルスペースではビールとピンチョスだけの利用も可能です。
地元の人もコロッケやヒルダなどのピンチョスをつまんでいました。

私たちもビールにコロッケを。


バルスペースから一段降りると、レストランスペースが二間にわたり広がります。まるで山小屋のような、貧しささえ感じるような、素朴ながら温かいしつらえです。

ふと見上げた壁には、古い鳥籠に囚われたミシュランマンが・・・!

エドルタはMantala*のインタビュー内でバスクのガストロノミーの現状について尋ねられ、下記のように語っていました。
「今後、弱まることは決してないと断言します。バスク料理には、強固な基盤に支えられた、歴史的かつ文化的な大きな重みがあります。とはいえ、私たちが本来あるべき場所、あるいは以前は当たり前のように位置していた最前線には、今、立てていないのも事実です。バスクのシェフたちには、謙虚さを欠き、学び続けることを怠ったという反省すべき点があります。私たちは少し停滞してしまったのです。自分たちの評判を過信し、周囲もまたそれを信じ込んでしまったのですから。」
*Mantala Basque Gastronomy(サイト)・・バスククリナリーセンターとHazi財団によるガストロノミーを推進するプロジェクト。知識の共有と共創を促進することで、バスクのガストロノミー(食文化)を発展・振興させることを使命とする取り組みで、バスクのガストロノミーの世界的な地位を維持するための知識、研究、そして料理を通じた協働を基盤としたコンテンツやプロジェクトを官民連携で展開している
古い鳥籠に閉じ込められ、手に何か杖?のようなものを掲げる固まった笑顔のミシュランマンの姿は、バスクのガストロノミーの中心において長く、しかし常に新しい旋風を巻き起こし続けている彼やその仲間たちだからこその、シニカルな仕掛けかもしれませんね!
もちろんミシュランに掲載されていることやグリーンスターを獲得したことについては、とても喜んでいるとのことです。

公式サイト:https://arrea.eus/(英語、スペイン語、バスク語)
公式Instagram:@arrea.kanpezu
住所:Subida al Frontón 46, Santa Cruz de Campezo
ARREA!で食べたものたち
季節によって、ARREA!で提供される料理は様々。次々とテーブルを埋め尽くすどこか懐かしい、でも新しい、自然な味わいの品々に驚かされました。




なんだかお正月のテーブルみたい?
ARREA!では、まず野菜や果物の酢漬けや加工肉などの保存食を前菜に、その後、豆や野菜、肉料理がお皿で提供されます。
色々な種類の伝統の保存食を少しずつつまみながら、バスク山間部の村の伝統の味わいを楽しみます。


エドルタシェフは、素晴らしい料理人たちとともに働いた下積み時代ののち、A Fuego Negroで独立して以来自分の料理スタイルを確立し、以来ずっと提供する料理を通じて、ガストロノミーの世界において「高尚な食材の民主化」と「そうではないと判断された食材の価値向上」を主張してきたと言います。
この「脳みそのフォア」はまさにそんなエドルタシェフの思想を表現した一皿で、バスクをはじめスペインの田舎の郷土料理として昔から食べられる子羊の脳みそと、ガストロノミーの象徴ともいえる鴨のフォアグラを同量で合わせてミ・キュイに仕上げたものです。かたや粗末で野蛮、かたや誰もが目を輝かせる、そんな両極端に存在するような食材同士が混ざりあい新しい美食が作られることは、ガストロノミーの過度な高尚化への反発でもあるようです。
小さな脳みそ型に入れて固め、表面はパチャラン(バスク、ナバーラで飲まれる、スピノサスモモの果実酒)で作ったゼリーがかかっています。そばには塩漬けして1ヶ月ほど発酵させたスピノサスモモが添えてあります。
このような一見するとグロテスクな、衝撃的なプレゼンテーションは、「挑発的な見た目でインパクトを残し、その背景にあるものに想いを馳せてもらう」というメッセージを込めているそうです。
残念ながら写真に収めていなかったのですが、テーブルに並べられた様々な保存食のそばに、グラスに刺さったグリッシーニ(または揚げたパスタ?)のようなものがありました(Grissinis de Cordero con unte de Patotrillo y Sangrecilla)。茶色く焼かれた香ばしいカリカリのスティックは実はパンではなく、羊の腸を細く丸めて長く焼いたもので、ここにも同様に、土着の貧しい食材が、知名度が高くキャッチーな食品の形をしている面白さがあります。
バスクやナバーラ、リオハの山間部でほぼ自給自足的に暮らしていた昔の貧しい農家では、育った子羊を屠殺したのち肉を売ると、家で食べるために残るのは頭部、内臓、皮や足など余りの部分となるのは当たり前のことでした。
大切なタンパク質ともなる貴重な食材を少しでも長く保存するために、腸をきれいに洗って干し、その後に丸めて乾燥させておき、必要な時にスライスして焼くか、煮込んで食べたりする貧しさゆえの伝統があります。
塩漬けにした子羊の腸をボール状に(まるで編み物の毛糸のように)丸めて乾燥させたEmbuchado de cordero や、子羊の足に腸を巻きつけたPatorrillo de corderoは、バスクやリオハの昔ながらの味です。
今はそんなEmbuchadoやPatorrilloを作る人もどんどん減り、また、食べる人も減っているそうです。昔ながらの伝統や歴史、そこにある悲喜交々を思い出させてくれるグリッシーニ(風)、奥が深いですが、カリカリで軽く焼き上げられていて本当に美味しかったです。

「酢漬けになった茹で卵の瓶が並んでいるバルは本物だ」そんな昔ながらの言い伝えから、エドルタシェフは卵のピクルスをA Fuego Negroのピクルスメニューに加えていたそうです。「良いお店」の証明であるアイコニックな一品はARREA!でも。そしてうずら卵に変更することで少しだけ上品なサイズに。
中はとろりとクリーミーに、リオハ・アラベサのレセルバ・ワインビネガーに漬けたのち、ビーツの果汁で独特なピンクの色合いに仕上げています。
また周りに並ぶ自家製の加工肉は、猪のチョリソ、サルチチョン、猪のタンのスモーク、猪の頭部のパテ、猪のパンセタ、ヒレ、鹿のヒレ、鳩の胸肉などの詰め物などでした。

お皿にまるで、本当の山から持ってきた苔が盛られているようなビジュアル、強烈です。
土には草が生え、山菜が生え、そして枯れ葉が落ちていました(もちろん全部食べられます)

猪のレバーや豚のパンセタにエシャロット、ニンニク、卵などを加え、タイムと塩コショウ、ブランデーで味付けをしたパテをベースに、リンゴのコンポート、Gurrubioteと呼ばれるこの地域で取れる小さなプラムのようなフルーツのクリームを加えたのち、ハーブと地元のパンのクラムを混ぜて作った苔の生えた土を被せています。
テーブルに運ばれた際に、シェフが木製のスコップで「土に撒いて」くれるのはりんごやGurrubiote、ローズヒップで作ったゼリーシートの葉。
食べ方は通常のパテ同様、ナイフですくってパンにつけて食べるのですが、構成される様々な食材の複雑な味わいに、本当に山を丸ごと食べているような、不思議な感覚に満たされました。

スペイン北部、特に湿潤で日照量の少ない山間部ではオリーブの木は非常に少ないのですが、テーブルにはまるで見た目はオリーブのような漬物が。これはまだ緑色のさくらんぼをニンニクとローリエで香りをつけた塩水に漬けたものでした。
香りと味わいは、まるで桜もち!馴染みのある青い桜の葉の香りをここで嗅ぐとは。
バスクは土着のさくらんぼの生産も盛んです。




店名のARREA!は、「進め!」の意味。軍隊の号令のように、先へ進まなければいけない強さがある言葉だそうです。

山のパテ同様、森からそのままテーブルに持ってきた、ようなこの一皿。実際に森で拾ってきた枝と混じって、りんごのペーストの中に枇杷のクリームを混ぜて棒状にした口直しの中間デザートです。
この中に一本だけ、枇杷のクリームの代わりにホワイトチョコレートと地元産の黒トリュフのクリームが入っている「当たり」が入っています。




サンタ・クルス・デ・カンペソ自体にはウズラはあまり生息していないそうですが、近隣の穀物畑が広がる地域では一般的で、カンペソでも冬の食材として伝統的に使われてきたようです。






肉料理は鹿。テーブルでエドルタシェフが最後の仕上げをして、各自に配られました。一緒に添えられているじゃがいもも外側はカリカリ、中にクリームが詰まっていて細部まで美味しかったです。
当日は食べるのに夢中でメモしていないお料理がほとんどで、説明が足らずすみません・・・・

ワインもバスク産のアイテムが豊富に揃っています。

とうとう、デザートの時間です。
ここまですごい品数をいただいているのですが、楽しくて、よくコースで食べているときに感じるような「お腹いっぱいで辛い、けど制覇したいから頑張る」という苦しさはなかったです。不思議。








ARREA!素晴らしかったです。そしてこんな素晴らしい体験を、素晴らしい仲間たちと共有できたことに感謝します。

お会計は5名で1,040ユーロ(一人250ユーロほど)でした。
今回の料理説明やその背景にあるメッセージなどは、ARREA!オフィシャルブックを参照しました。














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