リベイロはスペイン・ガリシア地方南部のワイン産地です。
D.O.リベイロ概要
D.O.リベイロ→原産地呼称委員会公式HP
川の岸辺(スペイン語:Riberas del río)を意味するガリシア語、Ribeiro リベイロ。
スペイン・ガリシア地方に存在する5つのD.O.のうち、南部オウレンセ県の北西部に位置するワイン産地です。
ミニョ川とその支流であるアビア川、アルノイア川の三つの川の合流によって形成される谷間の風景が象徴的で、下記14市町村に合わせて2800ヘクタールのぶどう畑が広がります。
アルノイア、ベアデ、ボボラース、カルバジェダ・デ・アビア、カルバジーニョ、カストレロ・デ・ミニョ、センジェ、コルテガダ、レイロ、オウレンセ、プシン、リバダビア、サン・アマロ、トエーン
標高は75m~400m程度、川の岸辺から谷の斜面を中心に広がり、一部Socalcos(ソカルコス・棚畠)またはこの地方でBocaribeiras(ボカリベイラス)と呼ばれる石で区切った棚状の畑が見られます。
内陸ながら海に近い独特の気候、三つの川で形成された谷間に広がる高低・角度の異なる土地を持つリベイロは、スペインでも「究極のMinifundio」(ミニフンディオ、気候・天候条件、土壌などが異なる最小の区画のこと)によって形成されていると言われ、区画によって個性豊かなワインが生まれます。
気候一般に関してはリベイロ(Wikipedia)参照のほど
川岸の一番低い土地で海抜75メートルから、斜面を上がって最も高いところで450メートルほど、100メートルごとに気温が1度変わると言われ、また霧が多く発生する川岸と風通しの良い山の斜面では湿度も異なります。
これに合わせて、川に沿って様々な方向に向いた畑が存在し、かつ、細かく分けられた土地を異なる保有者が異なる栽培方法でぶどうを作る、まさに究極のMinifundio(ミニフンディオ)の生産地なのです。
リベイロの現在のぶどう栽培面積は2,646ヘクタール、この面積が実に約5800の区画で所有者が分かれているとのことです。
(単純に割ると一生産者あたり半ヘクタール程度という驚きの狭さ)
ガリシアではぶどう栽培農家の代が変わるごとに子供の人数分に均等にぶどう畑を分け与える習慣があります。
綿々と続くぶどう栽培の歴史の中で、広大な土地は代替わりの度に区画の所有者が分けられてきました。
畑を受け継ぐ次世代では、一人は畑を耕し、二人は町に出て働き、という形で放置される区画も年を追って多くなります。
しかし、保守的なガリシアでは、ガリシア外部からの流入者を避けて、兄弟同士で畑を譲渡したり、兄弟がだめならいとこに譲渡したり、はたまた親戚がだめなら隣人の息子へ・・などと、血縁・近隣の区画保有の形はなかなか崩れません。
現在リベイロのぶどう栽培農家(+自家のワイン生産者も含む)の平均年齢は65歳と高齢化が進んでおり、後継者が少ないのは事実ですが、外部のお金持ちが「その畑10ヘクタール売って!」と来てもなかなか難しいようです。
リベイロで栽培されているぶどう品種(2017年改訂)
白品種(推奨)Treixadura(トレイシャドゥーラ)、Torrontés(トロンテース)、Godello(ゴデージョ)、Albariño(アルバリーニョ)、Loureira(ロウレイラ)、※2017年Lado(ラド)、Caiño Blanco(カイーニョ・ブランコ)が新たに追加されました。
白品種(使用可)Palomino(パロミノ)、Albillo(アルビージョ)※2016年ヴィンテージからマカベオは使用可能品種から削除されました。
赤品種(推奨):Caiño longo(カイーニョ・ロンゴ)、Caiño bravo(カイーニョ・ブラボ)、Caiño tinto(カイーニョ・ティント)、Sousón(ソウソーン)、Ferrón(フェローン)、Brancellao(ブランセジャオ)、Mencía(メンシーア)
赤品種(使用可)Garnacha tintorera(ガルナッチャ・ティントレラ)、Tempranillo(テンプラニーリョ)
リベイロでは三種類のワインが生産されています。
- Ribeiro blanco(リベイロ・ブランコ)白ワイン(85%)
- Ribeiro tingo(リベイロ・ティント)赤ワイン(15%)
- その他:Vino tostado(ビーノ・トスタード)
※追記 2017年1月D.O.規定が5年ぶりに改訂され、2016年ヴィンテージよりワイン分類が上記三種類から下記となりました。
- Ribeiro Espumoso(リベイロ・エスプモソ)白・ロゼ 推奨品種のみで作られたもの
- Ribeiro(リベイロ)白・赤 推奨品種・使用可能品種で作られたもの
- Ribeiro Castes(リベイロ・カステス)白・赤 推奨品種のみで作られたもの
- Ribeiro Barrica(リベイロ・バリッカ)白・赤 推奨品種のみで作られたもの
- Tostado Ribeiro(トスタード・リベイロ)白・赤 推奨品種のみで作られたもの
分類の変更は、「消費者が土着品種のワインをよりわかりやすく見分けるため」とし、リベイロは土着品種の復興から土着品種の発展というステージに入りました。
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リベイロの歴史
- 帝政ローマ時代にローマ人がイベリア半島を侵攻した際に持ち込んだぶどう栽培が始まる。紀元前には地元産ワインがローマ人の食卓のグラスを満たしていたと言われる
- ゲルマン民族流入、西ゴート王国の支配でワイン生産が減少する
- イベリア半島にイスラム帝国の支配が及ぶも、ガリシア地方には侵攻及ばず、アラブの影響を受けずにローマ時代から脈々と続くブドウ栽培・ワイン生産が活性化する
- シトー修道会のカトリック信仰普及により、Leiro村(レイロ)のSan Clodio(サン・クロディオ)に建設された修道院にて身を落ち着けた修道士たちがリベイロの土着ぶどう品種の偉大なるポテンシャルに感銘を受け献身的に品種研究に取り組み、現在のリベイロワインの礎を築く
- 12世紀にはサンティアゴ巡礼の道を通るユダヤ人商人たちの手でヨーロッパ各地へ「スペインで最も優れたワイン」として名声が広まる。当時は生産地の中心となる村の名前から「リバダビア」ワインと呼ばれた
- ポルトガルに助勢しカスティージャ王国を攻めたイングランド最強の王、エドワード黒太子もこの土地のワインに恋し、イングランド王国への輸入を指示させたという逸話も残る。
- クリストファー・コロンの新大陸発見に伴い、スペインを代表するワインとしてリベイロ産ワインがアメリカ大陸へ輸出された記録も残る
主にソウソン種やブランセジャオ種による赤ワインを意味する
- 19世紀後半(1882年)、世界を席巻したフィロキセラ禍により大打撃を受ける。
フィロキセラは、フランスとは違う形でスペインのぶどう畑を変えた
大打撃を受けたフランスが国内需要の補充のためワインの買い付けをおこなったのが、当時気候や土壌の影響でフランスよりも被害が少なかったスペイン。
世界のぶどう畑を壊滅させたフィロキセラ禍は皮肉にもスペインのワイン産業における黄金時代の到来、大いなる繁栄をもたらします。
フランスの膨大な需要にこたえるべく、広大なラ・マンチャ、レケーナの台地、フミージャ、ジェクラの平地など、ぶどう畑が存在しなかった土地で穀物が引き抜かれぶどうが次々と植えられました。
逆に伝統的な生産地はフィロキセラ禍の影響から古木の引き抜きを余儀なくされ、生活のためにアーモンドやオレンジの樹に植え替えを行ったり、また、この時期のリオハ地方の高品質赤ワイン生産の台頭により赤ワイン生産から白ワイン生産へ戦略的に(物理的にも)転換したバスク、ガリシアなど、1900年前後の数年で、スペインのぶどう畑は大きくその様相を変えました。
リベイロが変わった日
1882年、ポルトガルからタメガ川を通じ、モンテレイ、バルデオラスなどの産地を総なめにしたフィロキセラ禍は、1887年ついにリベイロの畑へ到達しました。
フィロキセラはガリシアの気候、土壌では耐性が弱くフランスほどの深刻な被害はもたらさなかったものの、同時にこの時期、リベイロをはじめとしたガリシアの多くの地域で脅威的な流行をみせたうどんこ病により、ガリシア一体のぶどう産地は壊滅的な状況に陥りました。
ほとんどのぶどう樹の植え替えをやむなくされ、代替えの品種として取り入れられたのがアンダルシア地方原産で当時は「ヘレス」と呼ばれたパロミノ種と、地中海原産で当時は「アリカンテ」と呼ばれたガルナッチャ・ティントレラ種。病気に強く生産性が高いとして、土着品種が引っこ抜かれた畑へ大々的に移植が行われたと同時に、リベイロはパロミノを主軸とした白ワインの生産地へと転換していきます。
リベイロでは1990年ごろまでなんと95%のワインがこのヘレスとアリカンテで生産されていたデータが残っています。
また、「スペインワインの黄金時代」とされたフィロキセラ禍からの時期も、リベイロは下記理由により時代の波にも乗り遅れていきます。
- もともと小さい生産地を多くの生産者が細かい区画で保有している+それぞれが保守的に昔ながらのワイン造りをしているので近代化が遅れていて大量生産ができない
- フランスが望んでいるアルコール度の高い赤ワインが生産されない
- 陸路・海路ともにフランスへの輸送に距離がありコストも甚大
- そもそも隣国への輸出に興味がない
この時期に「リベイロのワイン」としてのちにも印象に残ることとなったのが、白い陶器の器Cunca(クンカ、スペイン語ではCuenco クエンコまたはTaza タサ)で飲む濁りのある白ワイン。
灼熱のアンダルシアから、湿度が高いガリシアに植え替えられたパロミノは熟成に耐えうるワインを生み出さなかったことから、早飲み、フィルターなしの安価な白ワインが多く消費されました。
また、クンカの起源は定かではないもののリベイロが故郷とされ、「片頭痛をもよおす揮発性エーテルを多く含む不完全なワインを飲む際にアルコールが揮発しやすい形」という、実は不名誉な起源の云われがある器でもあります。
クンカがテーブルに並ぶ光景はガリシアならではです。オウレンセ郊外にはクンカをはじめとした焼き物で栄えた村もあり、これもガリシアの貴重な歴史の一部ですが、現在の品質の高いリベイロワインはワイングラスで飲むことをお勧めします。また、現在は濁りのある白ワインの生産はリベイロではほぼなく、もしどこかの観光地でクンカに入った濁った”ガリシアワイン”があればそれは、リベイロのワインではない可能性があります。また、わざと濁らせるために澱を加えるなどの業者もいますのでお気をつけて。
1990年代以降、品質追及により土着品種復興の動きが高まり、多くの生産者が古くから残る土着品種との植え替えを実施、現在ではパロミノの栽培量はD.O.全体の35%まで減少し、単一でのワイン生産はなくなっています。
赤ワイン主流から白ワイン主流への変化はあるものの、リベイロは危機を乗り越え、今また土地のワイン造りの未来に向けて着実に歩を進めています。
(ビノ・トスタードについて追記中・・)
リベイロのワイナリー
リベイロには、二種類のワイン生産者の規定が存在します。
- adegas・・アデガス スペイン語でBodegas(ボデガス)
- Colleiteiros・・コジェイテイロス スペイン語でCosecheros(収穫する人を意味する コセッチェロス)
1のアデガスは、いわゆるワインを生産する一般的なワイナリーです。自社または買い付けたぶどうを使用しワイン生産を行います。
リベイロには31軒のワイナリーが存在し(2015年)、ガリシア地方で最も古いワイナリー、最も巨大なワイナリー、そしてガリシア地方でガラス瓶へボトリングした初めてのワイナリーが含まれています。
リベイロのアデガス一覧(PDFが開きます)
2のコジェイテイロスは、下記条件のもとに申請を出しているワイン生産業者をさします。
- 自家が所有するぶどう畑で自身が栽培したぶどうのみを使用してワインを生産する
- 年間の総生産量が60000リットル以下
リベイロのコジェイテロス協会が作成したビデオが素晴らしいのでぜひ↓
リベイロのコジェイテイロス一覧(PDFが開きます)
リベイロに行ってみたくなった方はこちらも見てね
そして、本当に行きたい人は、下記へアクセス↓
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